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デザイン史概論

産業革命から始まるデザイン史の流れや世界の歴史との関係性、デジタル時代にもつながる話をしました。

産業革命とデザイン史誕生の背景

  • デザイン史以前の手仕事
    • シェーカー派(アメリカ)
      • 一般社会から隔絶した場所にコミュニティをつくり、質素、勤勉、労働を重んじ、自給自足、財産の共有、男女平等、独身主義に徹する日常を営んだ
      • 木製の家具や手工芸品において優れた成果を残した。それらはもともと閉じたコミュニティのための/におけるハンドメイドまたは家内制工芸の少量生産品であるため、丈夫な作り、簡素さ、機能性、独自の規格化を特徴とし、製品の品質は高い
  • 産業革命
    • 1765年…蒸気機関の発明
    • 19世紀初頭にイギリスや各地で産業革命が起こる
  • 工房から工場へ
    • それまでは職人という個人によって1から全て生み出されていたものが、工程を分けて複数人で大量に作り出していく、計画的な生産に移っていく
      • 計画=デザイン
    • 生産、流通において、より効率的で新しい方法が考えられていく
    • 手仕事では1つの街など近所レベルの流通だったのに対し、より広く世界を対象とした市場が意識されていく
  • 新しい高速の交通手段
    • 蒸気機関による機関車、船舶など
    • 国際的な市場経済の発達と万国博覧会
      • 1851年…第一回万国博覧会
        • 各国の装飾、図案、歴史的な様式引用により奇妙に映る
        • 世界中の新しい材料や技術製品を提示し、産業時代の象徴になる予定だった
        • 装飾への疑念

ウィリアム・モリス(1860年頃〜)

  • 美術家・社会評論家
  • 産業的な大量生産に反対
    • 産業化による環境汚染、劣悪な労働、粗悪な大量商品を批判
    • 環境保全運動
  • 歴史主義の過剰装飾←→自然に由来する装飾と素材
    • イギリスにおける歴史的様式の代表例「ヴィクトリア朝」
      • 豪華絢爛、けばけばしい
      • 見栄えのみが強く意識されており、劣悪な有用性、不十分な堅牢性
    • 装飾自体を否定するわけではなく、より自然環境に馴染んだ美的表現を求めた
      • 植物性染料の活用や自然のモチーフを用いた装飾

アーツ・アンド・クラフツ運動(1888年〜)

  • 装飾に対する完全なる否定(機能主義)ではなく、機能的なデザインとともに自然で簡素な美的表現の重要性を求めた
  • 歴史主義の拒絶
  • 手仕事の再考
  • デザインにおける芸術の重要性の認知

アール・ヌーヴォー(1895年〜)

  • アーツ・アンド・クラフツ運動に基づく世界各地的な改革運動
  • 歴史主義とは違い、装飾は恣意的に作成されるべきではなく、対象の構造や機能から「有機的」に成長するもの
    • 曲線的であり非対称
  • ユーゲントシュティール
    • ドイツのアール・ヌーヴォー
    • 自然をモチーフとしながらも直線的な表現もみられる
  • アール・ヌーヴォーは失敗?
    • 歴史主義と粗悪な産業的大量生産に対する批判としては正当性があった
    • 一方で産業デザインの発展を遅れさせたという面も
      • 手工業的な側面や曲線的、非対称性という面からも工業生産的に向かず、一昔前に戻っている面がある
    • 植物や自然をモチーフとした装飾を多用したため、結果的に歴史的な装飾を置き換えただけに過ぎなくなってしまった
    • また、ほとんどが手作りであったために、結果的に裕福な市民階級にしか届かなかった
  • アール・ヌーヴォーは表現する手法(解決策)としては上手くいかなかった面があるが、考え方、改革としては正当性があり生き続ける

モダニズムの誕生(1900年頃〜)

  • アール・ヌーヴォーとは並行して、同じような危機感をもちつつ、表現手法としてザッハリヒ的(シンプル)な形態で装飾を廃した表現も発展していった
  • グラスゴー派(スコットランドの港町グラスゴーから)
    • Charles Rennie Mackintosh(グラスゴー派の主要人物)
    • 白と黒の色調
    • 幾何学的な形態、水平線と垂直線による構成
    • 日本の美意識に強く影響を受けている
  • (余談)McIntosh…リンゴの品種の一つ。カナダの農夫ジョン・マッキントッシュ (John McIntosh) によって発見された。AppleのMacの由来とされている
    • もしかしたらJobsはMackintoshも意識していたのかも?
  • ウィーンの分離派
  • アメリカでは前述のシェーカー派などの影響もあり、すでに実用主義的な流れがあった
  • 「形態は機能に従う」(ルイス・ヘンリー・サリヴァン。シカゴ)
    • アメリカの経済発展・成長をに伴う高層建築や都市建築など近代建築の創始者の一人
  • フランク・ロイド・ライト
    • 若い頃にルイス・ヘンリー・サリヴァンの建築事務所で働いており、強く影響を受けた
  • ドイツ工作連盟(1907年〜)
    • ドイツにおいて、アール・ヌーヴォーの克服と近代的な産業デザインへの移行に道を付ける
    • 機械反対ではなく、産業に向かう方向での改革
    • 「芸術と産業と手工との協同による実業活動の質の向上」
    • ヴァルター・グロピウスも参加していた
  • AEG社とペーター・ベーレンス
    • 工業製品そのものにだけでなく、カタログや価格表、労働者住宅や工場建築にまで一貫した理念でデザインしており、完璧なコーポレート・アイデンティティ(CI)を備えた世界的な最初の企業となる
    • ヴァルター・グロピウスはベーレンスの弟子
    • 「まさに電気工学においては、装飾された付属品で形態を粉飾することが問題なのではない。電気工学には申し分ない新しい存在が内在しているのだから、それの新しい特性に適した形態を見出すことが重要である。」
  • ペーター・ベーレンス
  • ヴァルター・グロピウス
  • フランク・ロイド・ライト

ロシア・アヴァンギャルド(1907年頃〜)

  • ロシア・アヴァンギャルドが目指したユートピア。革命とともに生まれた前衛芸術運動とデザイン | おすすめ書籍 | nostos books ノストスブックス
  • 【美術解説】ピエト・モンドリアン「コンポジション」 - Artpedia アートペディア/ 近現代美術の百科事典・データベース
  • ロシア革命と共に誕生する芸術運動で構成主義とシュプレマティズム(絶対主義)という芸術様式
    • ロシア革命
      • 300年あまり続いたロマノフ王朝を倒し、世界初の社会主義国家を樹立
    • 構成主義
      • ラジミール・タトリン が制作した鉄板や木片を使ったカウンター・レリーフの中に構成(コンストラクション) を見出したのが始まりだと言われている
      • 今までの芸術手法を否定し、工業的な実用物を使って抽象的な美や力学的な美を表現
      • 革命後のロシアにおいて工業的経済発展こそが社会的進歩なのだというところから
      • 構成主義の芸術家たちは実用的な分野に芸術表現を用いていくことで、社会に貢献する、という強い意思を持っていた
  • 構造主義の3つの骨子「関係性の重視」「全体論的な視点」「表層的であるよりも深層的意識」
    • シュプレマティズム
      • カジミール・マレーヴィチが主張
      • 「創造的な芸術における純粋な感覚の絶対性」
      • 「絶対象」という意味で、禁欲的で完全なる抽象絵画
      • 現実とのあらゆる対応関係を排除した絶対的な抽象を志向し、白黒の円や正方形のみを構成要素とする「無対象」絵画
  • 国際競争における、デザインの経済的政治的利用
  • 簡素な幾何学形態と、白・黒・灰色・原色に限定された色使い
    • →バウハウスなどに影響を及ぼす
  • ソビエト政府の宣伝手段としてポスターや雑誌、街路や劇場
  • 一般大衆の生活水準を向上させることを目指して、大量生産における実用品、衣服、家具などをデザイン
    • 食器や織物は、大量に配布されるがゆえに宣伝運搬体(メディア)としても役立つ可能性を提供した
  • エル・リシツキー
  • ピート・モンドリアン
  • トーマス・リートフェルト

バウハウス(1919〜1933年)

  • 歴史主義を明確な形態言語によって克服し、芸術と手工作と産業の新しい統一を実現する
  • 初期バウハウスはアール・ヌーヴォーなどと同じように手工業的な中世への回帰に解決を求めた
  • 1925年にデッサウに移転
    • インダストリアルデザインと建築に教育の重点が置かれた
  • イッテン
  • クレー
  • ミース・ファン・デル・ローエ
  • ル・コルビュジエ

アール・デコ(1920年頃)

アメリカのモダン・インダストリアルデザイン(1920年代〜)

  • ヨーロッパ諸国は第一次世界大戦で技術と経済的な発展が制限される
  • 一方アメリカは、ヨーロッパの影響を受け入れながらも、消費の発展や技術的進歩によって独自に発展していった
  • デザインはまず第1にマーケティング要素として重要視されていた
    • 経済発展による競合の増加や宣伝分野の発展
    • 機能性だけでなく差別化としてのデザイン
  • 世界恐慌により冷え込む経済に消費を活気づけるための方法として、心惹かれるデザインが求められていく
    • 流線型が流行る
      • 未来的で進歩とダイナミズムのシンボル
  • 卓越した産業デザイナーの多くが広告出身であった
  • レイモンド・ローウィ

第三帝国におけるデザイン

  • ドイツ…ナチズムが日常美学と生産美学とにおいてもイデオロギー的な統制を求めた
    • イデオロギー…社会集団や社会的立場(国家・階級・党派・性別など)において思想・行動や生活の仕方を根底的に制約している観念・信条の体系。歴史的・社会的立場を反映した思想・意識の体系
      • 日常生活における、哲学的根拠。社会に支配的な集団によって提示される観念。
  • ナチズムは政治的な理由からバウハウスを閉鎖
    • バウハウスの指導者たちは、政治的な思想から切り離した機能主義をデザインに訴えていた
    • 彼らは後にアメリカに亡命し、アメリカの建築とデザインのモダニズム様式を発展させた
  • 後に、バウハウスの教育理念を継承し、オトル・アイヒャーがウルム造形大学を設立している

アメリカが経済と技術とデザインの発展を主導する(1950年頃〜)

モダニズムからポストモダンへ(1970年頃〜)

  • ポストモダン【Postmodern】 | Kazuo KAWASAKI
  • 消費社会への批判や機能主義の実用合理性による情緒的な欠陥などから、社会におけるデザインの使命についての問題が提起され始めた
    • デザインが機能・実用、はたまた政治的・商業的な役割などから、より普遍的な社会性というもっと広くメタ的な視点を持ち始めた
  • デザイナーが国家的思想や企業といったものに縛り付けられず、もっと自由な立場として考えや思想を表現するようになる
  • 機能主義はある種、そのモノの機能を強く主張し合理性を高めた考えで、ある種使う人にそれを押し付けているという見方がされた
  • ポスト・モダンは方法論というより、一種の流行と位置づけられることが多く、ポスト・モダニズムと言われることはあまりない
  • 近代の建築や産業デザインの合理的画一性や単調さに対しての反省や批判からおこったスタイルではあるが、その過剰性や奇抜さから次の時代に引き継がれることはなかった
  • 特徴としてはモダニズムへの批判や風刺を含んだデザインが多く、過去のデザイン運動や哲学的な引用と組み合わせ(コラージュ)といった手法も取られた
  • 人間中心主義として、人間自身が自らの能力によって世界観を秩序づけるという理念となり、生活態度を変革し革新する思想
  • モダンデザインが失ったといわれていた楽しみや遊びをさらに大胆に携帯や色彩で表現することで、デザインの新規性を訴求するシンボル的な時代実験となった
  • ニュー・デザイン
  • メンフィス
    • 1970年代のデザインへの反発であり、当時のデザインが欠いていたユーモアのセンスや人間の内的な力の権威を回復しようというデザイナー集団
  • メンフィス (デザイン) - Wikipedia
  • 倉俣史朗

スーパーノーマル、ノーデザイン

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